<−人間の価値−>






ガチャッ



振り向くと雄一郎がそこに立っていた。

雄一郎 : 「 やはりな・・・。」

       「 お前たちの行動は全てお見通しだ。 」

亮子  : 「 あなた・・・。」

慶介  : 「 ・・・・・・・・。」

雄一郎はズカズカと部屋の中に入ってくると

革張りの淡いクリーム色のソファに ドカッと腰をおろし、頬杖をついた。

その立ち居振る舞いは、この狭い世界の中でまさしく帝王であった。

雄一郎 : 「 フン・・。 亮子をたらしこんでいったい何が目的だ? 」

       「 おっと。 わかってるさコレだろ?

雄一郎が背広の胸ポケットから細長い通帳のようなものを取り出すと、ゴミでも捨てるように

ソファの前にあったガラス張りの机の上に放り投げた。

雄一郎 : 「 いくらでも君が望む金額をそこに書きたまえ。 」

       「 そして、二度とその汚らわしい面を、僕たち夫婦に見せないようお願いするよ。 」

慶介   : 「 ・・・・・・。」

亮子   : 「 あなた!

雄一郎 : 「 何のとりえもない男が生きていくには十分すぎる金をやると言っているんだ。」

        「 そう、これは僕から君へプレゼントする『青春18きっぷ』ってやつさ。」

雄一郎は蔑むような眼差しを慶介に送り、机の上の通帳を顎で指し示した。

ソファに寄りかかった身体の姿勢を変えるため右脚を左脚の上に組み、左手を右ひじの下にあてた。

右手人差し指の先が鼻の下の髭を念入りに何回もなぞる。

慶介と亮子は突っ立ったまま お互い顔を見合わせた

その様子を見ていた雄一郎は鼻の先で フッ と小ばかにしたような笑いを漏らした。

この緊迫した場面で、おどおどした慶介と亮子の反応を楽しんでいるのだ。

亮子  : 「 あなたに何をされようと、慶介さんと私の愛は変わらないわ!」

先に沈黙を破ったのは亮子だった

雄一郎 : 「 はたしてどうかな? キミ、これから先、亮子を幸せにできるかね?」

右の眉を上げ、慶介を見下ろすように話す雄一郎

        「 一人でも食べていくのがやっとの男になにができる? フフン。

         一時の勘違いが人を不幸にするってのはよくあることだ・・。」

雄一郎は畳み掛けるように言葉の矢を放つ。

        「 できるかね!?今まで外の世界を知らず甘えて育てられてきた亮子を幸せに!」

慶介  :  「 ・・・・・・。」

亮子  :  「 やめて!私たちはどんなに苦しくても、大風が吹き荒れてもそれに向かって

        一緒に歩いていけるわ! 」 

雄一郎 : 「 ヤレヤレ・・。これだからお嬢様は・・。 まったく世間知らずもいいとこだ。

         キミ、これ以上亮子を不幸にしようってのかい?さっさとそれにサインしたまえ。」

慶介はさきほどからずっと床の一点を凝視していた。

鉛のような重く冷たい空気が流れる。

しばらくして、慶介がゆっくりとソファに向かって歩き始めた。

亮子  : 「 ・・・慶介さん?」

慶介は雄一郎と対面するソファに力なくゆっくりと腰をおろした。

その姿、まるで余命いくばくもない枯れ枝のような老人であった。

慶介はペンをとると通帳の表紙を小刻みに震える手でゆっくりとめくった。

雄一郎 : 「 ククク・・・。」

       「 頭だけはいいみたいだな。」

震えるペンがミミズのような数字をなぞる。



     : 1 0 0 0  ・・・・・


雄一郎はあまりにもおかしすぎて、さっきから笑いをこらえるのに必死だった。

それは勝者にだけ許された笑い。

高貴な者が卑しい者をさげすむ笑いだった。







     : 10000000 ・・・・



      :
  ( ゚Д゚)(゚д゚)












     : 100000000 ・・・・


雄一郎 : 「 
あ、あの〜・・ 



雄一郎の声はさっきまでの帝王の声と違い、ネズミ男の声になっていた。

慶介の手は止まらない・・・。







      : 10000000000 ・・・・


雄一郎 : 「 ちょッ・・ まっ・・・ 」

       「 まて! マテ! タンマ! タ ン マ!!!



       「 ナシ!ナシ!! ナシ!!

慶介   : 「 え?」

雄一郎 : 「 おま・・ 限度があるだろ!限度!!

慶介   : 「 え・・でも・・。いくらでもOKって・・。」

慶介の指はさっきから震えがとまらない。

お宝GETチャンスに感極まっているのか。

雄一郎 : 「 何考えてんの!? もう〜〜!」

雄一郎の声は目玉のおやじの声になっていた。

慶介  : 「 だっていくらでもって・・・・。」

       「 ならいくらだったらいいですか?」

慶介の目はもはや死んだ魚の目のように濁っていたが、

その瞳は眼光を放っていた。

雄一郎 : 「 まあ〜 その〜 ・・・ 最高でも 0が6つ?

        欲張るとしても 7つ? が限界かな・・・・。   」

慶介   : 「 あ、そうですか。えへへ、相場がわからなくって。」

雄一郎 : 「 そっか。 まあいいよ・・。 これからは気をつけて。」

慶介   : 「 あ、はい。 勉強になりました。」








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こうして亮子は



めでたく2人のもとから姿を消した。



それと同時にあの小切手の通帳もどこかに消えていた。



















・・・・人の〜

こころって〜

かわの〜

水ですね〜・・・・・